シリアス+唐突+半分パラレルみたいなもの+英日なら何でも良いと言う方向け

消えてくれ。
硬質な声が響いた。


落ち着いた部屋、重厚な執務机の前で、イギリスが暗い瞳で日本を見た。
開いた扉に手を掛けた状態で、アメリカは部屋の中を見渡す。
いつもと変わりない、イギリスの執務室。違うことといえば、いつもは執務机の前に座っている部屋の主が、今は机の前に回りこんで自分達を鬱陶しげな目で見ていることだった。
その左手には、手入れをしていたらしい拳銃。カチリと嵌め、感触を確かめるように手の上で弄ぶ。


「どうせ、お前も俺から離れていくんだろ?」
「イギリスさん、違います。私は」
「黙れよ。どうせお前もアメリカと一緒だ。いつかは俺を捨てる」


それならばいっそ今、消えてくれ、とイギリスは吐き捨てた。


アメリカは今にも溢れそうな苛立ちともどかしさを飲み込む。
同盟を組んで、彼らは急速に仲良くなった。
特に、これまで孤立を保ってきたイギリスの日本への執着は、アメリカだけではなく他国さえも目を見張るほどだった。意地を張っていた彼もこれでもう大丈夫だ、と寂しさ以上に安堵したことを覚えている。

ただ、問題は同盟が解消された後だった。

大切なものを手放すときの痛みを知ったゆえに、失うことを極端に恐れるようになった。
恐れるあまりに、大切なもの自体を作るまいとした。

その結果が、これ。


同盟が解消されてから、世界が一応のまとまりを見せた後も、イギリスは仕事以外では日本と一切会わなくなった。


会わないどころか、手紙もメールも電話にも一切反応しない徹底ぶりだった。
日本も同じ気持ちならば構わない。けれど、日本はイギリスのことが好きだ。本人からそう聞いた。
人づてでは意味がないと今回、アメリカが促して日本を連れて英国までやってきた。伝えようとした好意に対して、もらった返事は拒絶一色だったけれど。

イギリスから無視され続けても、健気にイギリスを想う日本。
怒りを逃すためにひとつ、ため息を吐いた。


「イギリス、君いい加減にしなよ」
「はっ、何だその言葉。お前も俺を裏切ったくせに」
「裏切ったわけじゃないさ。成長しただけだって、どうして君はっ…」


アメリカは苛立ちの中に一片の懇願を交えて言った。
もどかしい。出来ることなら目の前の偏屈を、怒鳴って殴って抱きしめたい。そうじゃない、裏切ったわけじゃないんだと、どうしてわかってくれない。

全力で愛した子供が腕の中から去った後、彼は人をあまり信じなくなった。日本と同盟を組んで少しマシになったかと思えば、同盟を解消すると一層疑心暗鬼に駆られるようになった。今も、日本が懸命に好意を伝えようとしているのに、頭から嘘だと決め付ける。信じない。

アメリカは独り立ちをしたことを後悔したことはないが、イギリスに関してだけは、今でもどうすれば正しかったのか答えが出ない。少なくとも、彼に大きな傷を与えてしまったことだけは理解できる。けれど。


「イギリスさん、アメリカさんは今でもイギリスさんのことが好きなのですよ」


小さな身体で、必死になってイギリスの誤解を解こうとしている日本。
どうしてそこまで、とアメリカは叫びだしたかった。見限ってしまえば良いのに。何を言ってももう無駄なのだと。あくまでもイギリスに寄り添おうとする日本を見ると、諦めそうになっている自分の卑小さを突きつけられるようで、本当は少し辛い。

イギリスは冷たい口調で言い放った。


「お前に何がわかる」


そしてカチリ、と左手に持っていた拳銃を日本に向けた。
その眼には憎悪だけではなく、捨てられる恐怖と怯懦が見え隠れしている。


「っイギリス!洒落にならないんだぞ!」
「洒落にする気はねぇよ」
「やめろ」
「やめない」


そうだ、と口元を震わしながらイギリスは続ける。


「そうだよ、元々の原因をなくしてしまえば良いんじゃないか。そうしたら俺は平穏に、何に怯えることなく、苛立つことなく暮らせるじゃないか」


その口から、はは、と引きつった笑いが零れる。

「なんだ、簡単なことだ。裏切る前に殺せばいい」

日本は眼を見開き、唇を引き結んだ。
いっそ怯えれば良いのに、怖がってくれれば良いのに。
アメリカは願ったが、彼はその場から逃げるそぶりは欠片も見せなかった。

知っている。日本がどれだけイギリスを好きか。
アメリカは記憶を辿る。嬉しそうにイギリスのことを話す日本の顔。
どれだけ彼のことを慮って、どれだけ彼を大切にしているか。
知っている。


もう、本当に限界だった。



「イギリス、君、最低だよ」



一生吐き出したくなかった言葉。

あぁ、泣いてしまいそうだ。
アメリカは揺れる視界を必死に押しとどめた。




2011.05.28
≫2