彼はまるで、湖面に映る月のようだ。
日本はフランスを見るたびにそう思う。
今日はこの人と、明日はあの人と、その次の日はまた違う誰かと。
ゆらゆらふらふらと、皆に平等に愛を囁いて回る。
疾うの昔にそのような熱意を枯れさせてしまった日本からすれば、若い人はすごいですねと感心しきりである。
それでいて、彼は誰にも自身を掴ませない。湖面から掬い上げて隠してしまおうとしても、実際の彼がいるのは空の上だ。水面に揺れるは彼の影ばかり。
そこまで考えて、我が身を振り返り、思わず日本は小さく笑った。
道 化 者 に 恋 を し た
「やぁ日本、よかったら今晩ディナーでも一緒にどう?」
いつもながらの纏まらない世界会議が終わった後、フランスは退室しようとした日本の腕を捕まえた。こんな些細な接触でさえ意識してまいそうになる自分の心情に自嘲したくなる。
相も変わらず飄々とした笑みは、彼がどこまで本気でどこからが冗談なのかがわからない。
「最近日本とあんま話せてなかったしさ。勿論全部お兄さんの奢り!」
へら、と笑う。
相手の警戒心を解いてしまう、頼りないくせに魅力的な笑顔。
自分の魅力を知り尽くした笑顔。
「いえ…申し訳ありませんが、今日は予定がありまして」
日本はやんわりと断りを入れた。
困ったような微笑みを添えることも忘れない。
ここで例えばアメリカならば、「そんなの関係ないんだぞ!」と強引に日本を連れ出すだろう。イギリスならば、「そ、そうか。それなら仕方ない、な…」と物分りの良いふりをしつつも、目に見えて落胆する。
けれど、彼は。
「そ?残念。今日は綺麗な満月らしいから、日本と一緒に見たかったんだけどなー」
無理強いなど、しない。
困ったような笑い顔で、彼は惜しみなく愛を囁く。
そうして、あっさりと掴んだ腕を放すのだ。
日本は胸の内で哂う。
博愛主義者とはよく言ったものだ。
これほど冷たい人も、いない。
(臆 病 者 が ふ た り)