ふと、肉まんが食べたい、と思い立った。
夕食も食べ終わり、後片付けも終え、ゆったりとテレビを見ながらコタツでみかんを剥いている状態である。日本は、ひとまず半分に割ったみかんを口に放り込んだ。咀嚼しながら僅かに悩む。半纏を羽織り、お茶も入れ、日が変わるまでこの位置から動かずとも済む環境は整っている。本音を言えばここでゆっくりしていたい。しかし肉まんが食べたいと一度頭に浮かび、少しの手間でその願いが叶うのなら、諦めるのは少々難しい。
欲求と手間を秤に掛けると、ほんの少し欲求の方に傾いた。
そうと決まれば善は急げ。
日本は身体を右に傾け、そこで丸まる人に呼びかけた。
「イギリスさん、イギリスさん。もしかして寝てます?」
コタツ布団から見えているのは、二つ折りにした座布団を枕にして横になっているイギリスの上半身。
夕飯を食べ終えるとコタツ机に突っ伏し、日本が皿を洗っている間に気付けば寝そべっていた。テレビの方を向いて寝転がっているので、その表情は日本からは窺い知れない。
「…や、起きてる」
返事が返ってきたと同時に、器用に身体を反転させる。
起きてると言いつつ、目蓋は今にも閉じそうだ。コタツは睡魔を呼ぶ道具とも言う。
これで例えば、白いベットとシーツ、カーテンから朝日が透けるようなシチュエーションなら、一体どこの男性俳優かと思う。しかし残念ながら、シーツではなくコタツ布団、羽織っているものは日本と似たような半纏で、持っているものは羽枕ではなく座布団だ。これでは俳優ではなく、正しく日本の一般家庭の冬の姿である。
日本の表情が思わず緩む。
リラックスしているイギリスを見るのは好きだ。
「どうした?」
「いえ、たいしたことではないのですが」
「食い物?」
「はい」
真っ先に食べ物に関することかと聞くイギリスもイギリスだが、躊躇うことなく頷く日本も大概と言える。日本の食に対する姿勢は、この数十年間で十分すぎる程把握した。
「肉まんが食べたくなって」
「あー…あれか、コンビニに売ってる」
「そうです」
イギリスは寝転がったまま数秒思案する。
そして意を決したように上半身を起こした。
「今から?」
「出来れば」
そこでイギリスは、机の上に剥いたみかんがあることに気付いた。
綺麗に花びら型に剥かれた皮の上に、半分だけちょこんと乗っている。白い筋のようなものは、以前に日本が、身体に良いんですよ、と言っていた気がする。
イギリスは目を瞬かせて、にやりと笑うと「あー」と日本に向かって口を開けた。
律儀にも目は閉じている。
それを見た日本は先ほどのみかんがまだ半分残っていたことを思い出し、「仕方ないですね」と言って苦笑した。
あなたはどこのひな鳥ですか。
思わず口をついて出そうになった言葉は押しとどめた。
わざわざ藪を突いて蛇を出すことはない。
日本は催促された通り、イギリスの口に残っていたみかん半分を放り込んだ。
「差し上げますから、付いてきて下さいませんか」
口いっぱいにみかんを頬張りながら、イギリスはこくりと頷く。
そしてきちんと飲み込んでから、それは嬉しそうに口を開いた。
「わかった。付き添いの駄賃はお前、ってことで良いんだな」