世界会議の後、日本にある自宅に戻るとすでに日付も変わろうとしている時分だった。
家まで送ってくれた車に礼を言って返し、夜闇に紛れそうな玄関を開けて、ため息をひとつ。
これほど遅くなるとは予想外だった。
天候不順で、米国からの飛行機が時間通りに飛ばなかったことが主な原因と言える。
幸い、明日は上司の計らいで休日をもらっている。
もしかしたらアメリカやイギリス辺りがやってくるかもしれないが、まぁ、よくあることなので放っておこう。いっそ2人でやってきてくれれば、自分が相手をしなくても勝手に遊んでいてくれるのに。
電気もつけないまま、履物を脱いでひっそりと中にあがる。
居間を覗くと、愛犬がすいよすいよと気持ち良さそうに眠っていた。
おやすみなさい、ポチくん。
起こさないように小声で囁く。
規則正しく上下する小さな身体を見ると、思わず笑みが零れた。
数分もすれば、目もだいぶ暗闇に慣れてくる。
スーツから普段着の着物に着替え一段落着いた後、ふと、庭に目をやった。
(今日は綺麗な満月だから)
そう。そういえば、今夜は満月だった。
日本は縁側から空を見上げる。
濃紺の空の中、白に近い丸い月がひとつ静かに浮かんでいた。
僅かに考え込んだ後、風呂場へと向かう。
そうして水を張った桶を一つ抱えて、庭に出た。
零さないように慎重に土の上に置く。
何度か場所を置きなおして、結局池の前になった。
その真横に、膝を抱えるようにして座り込む。
地面に体育座りなんて、いつぶりでしょうか。
懐かしい行為に苦笑が零れた。
つかの間、耳を澄ませて深夜特有の静かな空気を楽しむ。
木桶の中には、小さく揺れる月の影。
「つかまえた」
染み入るように、愛しげな呟きが零れた。