横腹が熱い。
幸い痛みはあまり感じないが、意識が沈みそうになる辺り、危ないのかもしれないとぼんやり思う。
けれど自分の名を呼ぶ声がする。日本が一番好きな、声。
ゆっくりと目を開けた。
「いぎりす、さん」
ぼろぼろと涙を零すイギリスの頬に、そ、と手を伸ばす。
指の先が温かな水に触れた。
「日本、すまない、こんな…ごめん、日本…!」
日本の手を自らの頬に押し当てるように握り締め、綺麗な顔を歪ませて、深い碧の目に水分を張って。
懸命に許しを請う、愛しい人。
日本は、笑った。
あぁ、やっと。
これでやっと、この人が私を見る。
歓喜に胸が震えた。
「だいじょうぶ、です、イギリスさん」
なんて綺麗な瞳なんだろう。
失うことを恐れて、それは不安げに揺れる。金色の髪と美しい緑の瞳を持った、奇跡みたいに綺麗な人。これまでのこの人の視線はずっと自分を素通りしていたけれど、今は。
腹から流れ出る血の代わりにイギリスの心を縛れるのなら、いっそ自ら腹を掻き裂いてもよかった。
彼の視界に入るためなら、何の躊躇いもない。
しかし、自傷するだけでは駄目だ。彼の感情を揺さぶるタイミングが大切だった。
絶好の好機をくれたアメリカに心から感謝したい。
「あ、の…」
体温が低下しているからか、上手く呂律が回らない。
もう少し。あと少しだけ。
日本は今にも閉じそうな目蓋を懸命に開いた。
「ごめん、ごめんな、日本…。しなないでくれ」
降り積もるような彼の声。なんて幸せなんだろう。
うっすらと、彼の後ろでアメリカが携帯に向かって怒鳴っている姿が見える。
助けなど呼んでもあまり意味がないのに。
そう、何の意味もない。
自分を生かすも殺すも、この人次第。
今、自分がほしいものは。
「イギリスさん。すきです」
音になっただろうか。
イギリスがますます泣きそうな顔をしたので、きちんと伝わったかどうか不安になった。
差し伸べたままの右手を握る、彼の力が強くなったように感じた。
かすむ視界を必死に押しとどめる。
返答などなくても、せめて意識が途絶えるまで彼の顔を見ていたい。
イギリスが泣きながら笑う。
そして、緩やかに、囁くように呟いた。
「おれもだ」
日本はそれは満足げに微笑み、そしてそのまま目を閉じた。
これで、あなたは私のもの。